【キャプテン翼考察】マリーシアの重要性が分かる名勝負⓵「南葛中vs東一中」
photo by chia ying Yang
南葛中×東一中
全国中学生サッカー大会のオープニングゲームで、大会3連覇を目指す南葛中が初出場の東一中に2-1と逆転勝利した試合(『キャプテン翼』単行本第16巻に掲載)
<この試合の主役は東一中のディフェンダー・早田誠だ>
マリーシアとは、ポルトガル語で「ずる賢さ」を指す。サッカーでは、リードしているチームが後半のアディショナルタイムに選手交代で時間稼ぎをするなど“ちょっと汚いこと”をして試合を優位に進めるケースがある。
ブラジルやアルゼンチンといった南米勢のチームは、この「マリーシア」を上手く使って試合を優位に進める。ペナルティエリア内で接触していないのに上手く倒れてPKをもらうのも、マリーシアである。
そのマリーシアで南葛中を苦しめたのが、東一中のディフェンダー・早田誠だった。ある意味、この試合の主役は彼である。
南葛中からカミソリシュート(いわゆるカーブをかけたシュート)で先制点を奪った早田は、相手のエース・大空翼を徹底マーク。ボールを持っていないところでもぴたりとマークして翼を自由にさせなかった早田は、「相手のエースさえ抑えればなんとかなる」というシンプルかつ効果的な守りで試合の流れを呼び込むのだ。
<早田がこの試合でいかに良い仕事をしていたかは…>
特筆すべきは、前半10分のプレー。個人技で抜きにかかろうとした翼を反則覚悟のタックルで潰した早田のマリーシアだ。この場面、彼は心の中でこんなことを言っている。「いったんマークにつけばどんなことをしても止める。たとえそれが反則でもだ」と。
そうしたプレースタイルから早田は「エース殺し」と呼ばれている。とはいえ、ダーティーな印象があるものの、むしろ早田はインテリジェンス溢れるプレーヤーだ。確かに1-1に追いつかれた後、やや無謀なオーバーラップから逆カミソリシュート(最初のカミソリシュートとは逆方向にカーブをかけた)を止められ、カウンターから逆転ゴールを許す原因になってしまうが、中学生でマリーシアを身につけているあたりは「サッカーIQ」が高い証拠でもある。
話が少し逸れたが、前半10分のプレーでなにより素晴らしかったのは、翼を止めた場所。ペナルティエリアより少し離れたところだったので、早田はイエローカードをもらっていない。これがエリア付近だと直接FKで狙われたりするのだが、早田はピンチになる可能性が低い、いわば安全圏のエリアで翼を潰したのだ。
これぞ、まさにマリーシア。早田がこの試合でいかに良い仕事をしていたかは、その翼を止めた場面での実況のアナウンサーの言葉が如実に物語っている。
「初出場の東一中。大健闘!まことにうまいゲーム運びでまだ南葛にチャンスらしいチャンスを与えていません!それはなんといっても早田くんの強引とも思われる翼くんマークがきいています」
スマートのままでは勝てない。この一戦はサッカーの奥深さを教えてくれる試合でもあった。
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